カウンセラーの応答を確認型と反応型に分類する試み

対話法研究所 浅野良雄

A Proposal to Classify Counselor's Responses as
"Comfirmative Response" or "Reactive Response"

要約
 カウンセリングの傾聴技法の中から特に重要な部分を取り出した〈対話法〉の原則は、日常の対人コミュニケーションの質の向上に役立っている。また、〈対話法〉の研究と実践から導かれた「確認型応答」と「反応型応答」という概念によって、聞き手、あるいはカウンセラーによる応答を分類することは、日常の対話場面だけでなく、カウンセリングを学習する初心者にとっても、受容や共感という概念を学ぶ際の助けになるものと考えられる。

キーワード:対話法、カウンセリング、応答、受容、共感、傾聴


0.はじめに
 〈対話法〉は、日常生活における言語コミュニケーションの質を高めることを目的として、1994年に浅野(1997)によって考案されたものである。その後、各地において練習会が開催され、さまざまな場面で実践が行なわれてきた。そして、研究や経験の中から生まれたいくつかの概念は、カウンセリングの技法を習得する際にも役立つものと考えられる。
 本論文においては、はじめに〈対話法〉の概略を紹介し、次に、そこから生まれた「確認型応答」と「反応型応答」の概念を説明しながら、カウンセリングの学習における適用の可能性を考察する。

1.〈対話法〉の概念と技法
 〈対話法〉は、カウンセリングの理論や技法の基本概念として従来から知られている、受容・共感・傾聴技法の中から、一般の人(専門家以外)が習得しやすいように、特に重要な部分のみを抽出して単純化したコミュニケーション技法である。
 〈対話法〉の原則は、「自分の考えや気持ちを言う前に、相手が言いたいことの要点を相手に言葉で確かめる」ことであり、特に後半の部分は、「要点確認」あるいは「要点確認技法」と呼ばれ、重要視されている。
 人は、日常の対人関係において、相手に対して言いたいことや伝えたいことがあるから話すのである。したがって、自分が言ったことに対して、相手が賛成してくれるかどうかという以前に、「自分の言いたいことが誤解なく相手に伝わった」という実感、つまり満足感が得られるかどうかが大きな問題である。
 そこで、日常のコミュニケーション場面において、この満足感を基軸とした信頼関係を深めるための具体的な手段が〈対話法〉の原則である。この原則はきわめて単純であるが、それゆえに、他のコミュニケーション技法と比べて習得が容易であるところに、〈対話法〉の一番の特徴がある。そして、日常のコミュニケーション場面において、必要に応じて〈対話法〉の原則を使うことにより、誤解による対人トラブルが防止でき、相互の信頼関係の維持と向上に役立つことが、〈対話法〉の実践をとおして経験的にわかっている。

2.応答に関する新たな概念と分類
 〈対話法〉の理論と実践では、当初、要点確認という概念のみが対象となっていたが、のちに、それと対称的な概念を導入することにより、要点確認の重要性がさらに強調されることがわかった。

1)応答の言葉が相手に与える影響の多様性
 我々は、日常の対人関係において、どのような場面で、どのように話せば、良好な人間関係を維持できるかということに強い関心がある。つまり、相手に対してどのような言い方をすればいいかということに、たえず気を配っていると言えるだろう。
 ところが、まったく同じ言葉であっても、相手が違ったり、たとえ同じ相手であっても、時と場所が異なると、相手に与える影響が違ってくることも、経験をとおして知っている。つまり、自分は同じ言葉を使っていても、それが相手を喜ばすこともあれば、逆に落胆させることにもなりうるのである。
 たとえば、「頑張ってね」とか「頑張れよ」という言葉がけは、相手の気力が十分なときには、激励の言葉としてプラスに作用するが、相手が深く落ち込んでいるときは、かえってマイナスの影響を与えることが多いと言われている。
 親による子どもへの効果的な声がけの方法などを、「親業訓練」として提唱しているアメリカの心理学者、トマス・ゴードン(1998)は、子どもの心に破壊的な影響を与える可能性がある応答として、次のような12のタイプをリストアップしている。それは、「命令、指示」「注意、脅迫」「訓戒、説教」「忠告、解決策などを提案」「講義、論理の展開」「批判、非難」「称賛、同意」「悪口をいう、ばかにする、辱める」「分析、診断」「激励、同情」「質問、尋問」「中止、注意をほかへそらす」である。これらは、日常、我々が、子どもに限らず、相手の発言を聞いたあとに発する一般的な応答である。
 ここで、脅迫、非難、辱めるなどが、相手に破壊的な影響を与える可能性があることは容易に理解できる。また、激励の影響については、先に述べたとおりである。ところが、一般的には良しとされる、称賛や同意が悪影響を与える可能性があるというのは意外である。しかし、これは、発話者にとって予想外の条件が重なった場合を想定すると理解できる。たとえば、相手の発言に対して、「それは素晴らしいですね」と称賛したとき、相手がこの言葉を、「皮肉」や「お世辞」として受け取った場合である。あるいは、「私もそう思いますよ」と同意したときに、相手が、「本心ではなく表面的に合わせてくれているだけ」とか「安易な賛成」と受け取った場合である。
 このような考察から、ゴードンがリストアップしたすべてのタイプの応答が、たとえ、ゴードンが主張しているほど「破壊的」ではないにしても、条件(特に相手の受け取り方)によっては、どれもマイナスに作用する可能性があるということがわかる。さらに重要なことは、これらのタイプの応答は、我々が日常行なっている発話(応答)のすべてを含んでいると考えられるので、我々が日常的に発するすべての言葉は、条件によっては、相手に対してマイナスの影響を与える可能性があるということである。

2)確認型応答・反応型応答という分類
 一方、〈対話法〉で提唱されている要点確認は、相手の発言内容に対して、肯定も否定もしないタイプの応答である。このようなタイプの応答は、カウンセラーが多く使う応答に近いものであり、さまざまな条件に左右されずに、相手との心理的な距離を縮め、信頼感を育むために役立つ。
 そこで、相手への影響が異なる、これら2つのタイプの応答の性質と効果を検討すると、「確認型応答」と「反応型応答」とに分類することの意義に気づく。
 これらの分類は、浅野による試案である。確認型応答は、〈対話法〉の要点確認技法による応答である。また、反応型応答は、ゴードンがリストアップしている応答の総称である。つまり、我々が日常的に行なっている応答のほとんど全部を指している。「反応」というのは、主に、相手の発言に対する「自分(聞き手)の思考的・感情的な反応」を言葉にして応答するという意味である。
 ここで、応答の2つの型について、特徴をまとめておく。
 確認型応答は、さまざまな条件に影響されずに、相手に対してプラスに作用する可能性が高い。反応型応答は、さまざまな条件によって、プラスに作用することもあれば、マイナスに作用することもある。

3)応答の例
 ここで、確認型応答と反応型応答との違いを、クライエントに対するカウンセラーによる応答を想定して具体的に説明する。
 たとえば、クライエントが、「この頃、暑くて、夜、よく眠れません」と言ったとする。
 確認型応答によるカウンセラーの応答には、「それは大変ですね」「眠れなくて辛いんですね」などがある。「相手が言いたいことの要点を(推測を含めて)確認する」のである。推測であるから、本当に相手が言いたいことと違っている可能性もある。しかし、〈対話法〉で推奨する確認型応答では、確認の内容が相手の言いたいことと合っているかどうかということよりも、確認の「型」になっているかどうかという方が重要視されているので、少しくらい違っていても、まったく問題ない。なお、もしも大きく違っていたら、次の確認型応答で修正すればいいのである。
 一方、反応型応答の場合は、「実は、私もそうなんですよ」「いくら暑くても、眠れないほどではないでしょう」「それは変ですよ」「どこか体がおかしいのでしょうね」「何か心配でもあるのですか?」などが考えられる。どの応答も、クライエントの発言を聞いたときにカウンセラーの中にわいた感情から発せられたものである。
 ここで、反応型応答がクライエントに与える影響を考えてみる。たとえば、カウンセラーが、「実は、私もそうなんですよ」と言った場合、クライエントは、「カウンセラーも同じなんだな、自分だけでなくて良かった」と安心するかも知れない。しかし、「自分が辛いということをわかってもらいたかっただけで、カウンセラーのことを聞きたかったわけではない」と、心の中で反発するかも知れない。つまり、クライエントの中にわき起こる気持ちには、プラスかマイナスの両極端の可能性がある。これが、反応型応答の特徴である。
 ここで、応答の2つのタイプを、カウンセラーの応答に即して改めて定義すると次のようになる。
 クライエント(相手)が言いたいことに焦点を当てた応答が確認型応答であり、カウンセラー(自分)が言いたいことに焦点を当てた応答が反応型応答である。

3.カウンセリング学習への活用の可能性
 〈対話法〉は、日常のコミュニケーションに使うことを目的として考案されたものであるが、〈対話法〉の研究や実践から導かれた新しい概念は、カウンセリングを学ぶ初心者にも役立つと思われる。なぜなら、〈対話法〉の基本である要点確認や、そこから発展した確認型応答・反応型応答という概念は、カウンセリングにおける受容・共感・傾聴技法とほぼ同様の概念であり、しかも、専門家以外にもわかりやすいからである。
 ここでは、カウンセリング理論における基本的な概念と〈対話法〉との関連を考察しながら、カウンセリングの学習に〈対話法〉の知見を活用する可能性をさぐることとする。なお、ここで言うカウンセリングは、主として「クライエント中心療法」のことを指している。

1)受容との関連
 受容という言葉は、「受け入れて取り込むこと」や一般的には、「受け入れて許すこと」という意味であるが、何を受け入れるのか、何を許すのかというところまで考慮して論じられることは少なく、常識的な解釈としては、「相手の要求などを聞き入れる」という捉え方をされることが多い。
 一方、カウンセリング理論における受容は、主として、「あるがままの考えや感情を相手がもつことを許す」というような意味で使われている。さらに、「相手の存在をあるがままに受け入れる」という意味で使われることもある。
 このように、受容という言葉は、常識的な意味と、カウンセリング理論における意味が大きく異なるので、カウンセリングを習う初心者にとっては戸惑いが大きい。
 そこで、ここに要点確認や確認型応答という概念を導入することは、初心者がこの難問を乗り越える際の一助になると考える。なぜなら、「相手が言いたいことの要点を相手に言葉で確かめる」ことは、受容という概念をどのように理解するかに関係なく可能だからである。さらに、要点確認という行為それ自体の中に、相手の発言を丁寧に聞くことが含まれているため、自ずから、相手の存在、考えや感情を受け入れていることになる。つまり、要点確認、あるいは確認型応答には、カウンセリング的な意味での受容とほぼ同様の働きがあると言えよう。

2)共感との関連
 カウンセリングを学ぶ初心者にとって、もう一つの難関は、共感、すなわち感情移入的な理解による応答と、カウンセラーの考えや気持ちが混ざった応答との区別である。日常生活の中で、この2つを区別する習慣がないため、これは当然のことである。そこで、カウンセリングの学習は、この2つの違いを理解することから始まるのである。しかし、そこで重要となる共感の概念自体が難解であるため、初心者にとっては二重の困難が生じている現状がある。
 共感についての理解が難しい原因の一つは、共感という言葉が、一般的に、相手の考えや気持ちに同感することとほとんど同じ意味で使われているところにある。
 ところが、カウンセリング理論においては、共感は、カウンセラーがどう思うか、あるいは、どういう気持ちになるかという意味ではなく、カウンセラーの判断を交えない理解の仕方を意味している。つまり、一般的な共感の意味とは正反対の概念なのである。
 さらに、共感が内面的な心理作用であることも、共感についての説明や理解、さらには実践を難しくしている要因であると考えられる。
 その点、〈対話法〉で使われる要点確認、すなわち確認型応答は、必ずしも共感の概念を理解していなくても、実行が可能である。また、共感という、内面的な心の働きを表す概念と比べて、要点確認は、「確認する」という、いわゆる目に見える行動であるため、初心者でも理解しやすいであろう。
 さらに、要点確認、あるいは確認型応答をしようとして、相手が言いたいことの要点を考え、推測する際には、自ずから相手の立場に立つことになる。この姿勢は、共感や感情移入的な理解と呼ばれるものと、ほぼイコールである。つまり、確認型応答を実行することによって、自ずから「共感」が行なわれることになるのである。
 以上のような理由から、確認型応答という概念の導入は、初心者が、共感という概念を理解する上で役立つものと思われる。

3)傾聴技法との関連
 要点確認技法や確認型応答は、カウンセリング理論でいうところの傾聴技法とほぼ同じ概念である。違うところは、傾聴技法が、文字通り「聴く」というイメージが強いのに比べて、要点確認技法や確認型応答の場合は、「確認」や「応答」という言葉が入っているため、言葉を返すことが強調されていることである。
 ところで、カウンセリング理論では、傾聴が重視されているため、ともすると、実際の面接においても、カウンセラーがクライエントの話を聞くだけに片寄る傾向がある。これは、先に述べたように、傾聴という言葉のイメージによる影響が大きいであろう。また、初心者がカウンセリングを学ぶ過程において、いわゆるアドバイスの禁止が原則として指導されることが多いのも、聞くだけのカウンセリングのみが真のカウンセリングであると誤解される要因の一つであろう。
 初心者に対して、「カウンセラーはクライエントにアドバイスをしてはいけない」と指導されることが多い一つの理由は、カウンセラーが、クライエントの役に立つと思ってアドバイスをしたとしても、アドバイスは、あくまでも反応型応答の一種なので、クライエントにマイナスの影響を与える可能性があるからである。そこで、安全のために、クライエントにアドバイスをしないようにという指導がなされるものと考えられる。
 しかし、熟練したカウンセラーであれば、クライエントの話を傾聴するだけでなく、カウンセラーからも、必要に応じて、なんらかのアドバイスをしているのが実状である。なぜなら、熟練したカウンセラーは、アドバイスをしたあと、その影響を、クライエントの表情や態度、あるいは言葉から早めに察知して、そこに共感(〈対話法〉でいうところの確認型応答)することにより、マイナスの方向へ進むことを回避できるからである。
 これらのことから、初心者が、傾聴技法の真の価値や、アドバイスの危険性と必要性を理解するために、確認型応答や反応型応答という概念を導入した説明が役立つものと思われる。

4.おわりに
 カウンセリングを学ぶことの中には、面接での応答技法だけでなく、人間という存在への絶対的な尊重の精神を養うことや、カウンセラー自身の人格的成長などが含まれている。
 しかし、カウンセリング理論は初心者にとって難解であるため、応答の技術面のところで誤解や混乱が起こりやすく、学習がなかなか先に進まない現状があるものと思われる。
 そこで、〈対話法〉の要点確認技法から導かれた確認型応答や反応型応答という概念が、カウンセリングを学ぶ上での補助的な手段として役立つことを願うものである。

参考文献
浅野良雄:ヘルスサイエンス研究、創刊号、カウンセリングにおける〈対話法〉
     の適用事例、ぐんまカウンセリング研究会、p7-13、1997
トマス・ゴードン、近藤千恵訳:親業、三笠書房、1998


「ヘルスサイエンス研究」第8巻1号(ISSN 1343-3393)
(2004年10月25日、ぐんまカウンセリング研究会発行)から抜粋