対話における応答の一致度とラポール維持との関係

対話法研究所 浅野良雄

Relationship between the Concordance of Response
and the Continuity of Rapport on Dialogue

要約
 〈対話法〉は, カウンセリングの傾聴技法を単純化して, 一般の人が使いやすいようにする試みである. そこでは, ラポールの維持にとって重要なのは, 聞き手の応答が, 話し手が伝えたいことと合っている(一致度が高い)かどうかではなく, 「確認」という応答行為それ自体であるとされている. 今回, 5名の被験者により, インターネットを使ったE-メールの交換という形で対話の実験を行なった結果, 話し手が伝えたい気持ちと, 聞き手による応答の内容が必ずしも一致していなくても, ラポールが維持されることがわかった.

キーワード:対話法, 傾聴, 応答, 確認, ラポール


目的
 筆者は, カウンセリングの傾聴技法として重要な「受容」や「共感」を単純化して, 日常の対人関係におけるラポール(信頼関係)の質の向上に役立てることを目的とした〈対話法〉を提唱している. 〈対話法〉は浅野の造語であり, 詳細は「ヘルスサイエンス研究」創刊号ほかで紹介されている.
 〈対話法〉をとおして浅野は, ラポールの維持にとって重要なのは, 聞き手の応答が, 話し手が伝えたいことと合っている(一致度が高い)かどうかではなく, 「確認」という応答行為それ自体であると強調している.
 今回は, ラポールの維持という概念を, 「これからもこの人と話したい」という意味に限定して, 応答の一致度とラポール維持との関係を確かめることを目的として実験を行なった.

方法
1)被験者
 インターネットを使って浅野が発行する〈対話法〉関連のメールマガジンの購読者と, 〈対話法〉を練習するためのメーリングリストの参加者のうち実験への協力を希望した5名.
 被験者には, 実験の目的および方法について説明し, 発言者も応答者も匿名として実験を行なうため, 実験者以外は本人を特定できないこと, また, 結果については論文として公表することを説明し, 了解を得た.
 さらに, 被験者には, できるだけ本音で発言・応答・評定をするよう教示した.
2)期間
 2002年12月22日〜2003年2月4日.
3)手続き
@5名の被験者のなかから発言者を募り, 先着の1名を発言者とし, 相談内容をE-メールで実験者に送らせた.
A実験者が相談内容を5つのセクションに区切り, 発言者以外の被験者(応答者)にE-メールで送付した.
B応答者は, 各セクションごとに自分が適当と思う応答文を記入後, 実験者にE-メールで返送した.
C実験者は, 応答文を発言者に送り, つぎの評定項目につき評点を記入させたあと, 実験者にE-メールで返送させた.
4)評定項目
@セクションごとの評定
一致度:あなたが言いたいことが相手に伝わっていると思いますか? よく伝わっている 3点, だいたい伝わっている 2点, 伝わっていない 1点
好感度:あなたにとって好感がもてる応答ですか? 好感がもてる応答 3点, どちらともいえない 2点, 好感がもてる応答ではない 1点
A総合評価:これからもこの人と話したいですか?
話をしたい 3点, どちらともいえない 2点, 話をしたくない 1点
5)評点の集計
 一致度, 好感度, 総合評価について, 応答者ごとに評点の合計を求めた.

結果
 実際に交わされた発言と応答, さらに, 応答に対する評定とコメントを掲載する. セクションごとの評点は, 一致度, 好感度の順とする. なお, それぞれの文は原則的に原文のまま記載する.
1)発言
セクション1:35歳の兼業主婦です. 幼児が1人. システムエンジニアとして13年目(育児休暇で実質1年休んでいます)になります. 今の仕事を辞めたいと思っているのだけど, 悩んでいます. 私の収入が生活費の3/5を担っているため, 無職になるのは生活が苦しくなるだろうという不安があります. かといって, 小さな子どもがいるのに転職も難しいと思います.
セクション2:それなら, 「収入のため」と割り切って現職を続ければ良いのにと思われるかもしれませんが, コンピュータ業界で10年以上も勤めたのに芽が出ていなくて, このまま続けていても, 将来の自分が想像できないし, 仕事に楽しさを感じられないというのがとても苦痛なのです.
セクション3:興味がないから勉強にも身が入らないし, 向上心も沸いてこないのかもしれません. では, 興味があることなら, 今からでも勉強して身につけて, 一生の仕事としてやっていくことができるのでしょうか? そう考えると, 今度は自分で自分を信用できない部分があります.
セクション4:今の仕事が嫌だから, 別の分野に興味があると逃げているのではないか? 新しいことをはじめても, どうせまた途中で壁にぶち当たり, そこで挫折してしまうのではないか? と不安です.
セクション5:もう1つの選択肢としては, 専業主婦があります. 夫に仕事をがんばってもらって, 専業主婦をやればいいじゃないかという声もあるかもしれません. 子どもも小さいですし. でも, 私は専業主婦にも自信がないのです. 育児休暇中に感じた焦燥感に打ち勝てるだろうか, 気晴らしの時間も無くなってしまうのに大らかな母親でいられるだろうか? 仕事を理由に, 苦手な家事をサボってきたけど, それが許されない状態に耐えられるだろうか? あれこれ考えてはいますが, 気持ちの中の整理がつかず, 進展がありません. 一歩を踏み出す勇気が欲しいのですが, 思い直す必要があるのかもしれませんし.
2)応答と評定
@応答者A
応答1:今の仕事を辞めたいけれど, 無職になると生活が苦しくなるし, 転職の難しさをかんがえると不安で踏み切れないのですね.  3, 3
応答2:「収入のため」と割り切って喜びの感じられない今の仕事を続けることが苦痛なのですね.  3, 3
応答3:興味のあることを仕事にして一生続けていく自信がないのですね.  2, 3
応答4:結局何をしても途中で挫折してしまうのではないだろうかと不安になるのですね.  3, 2
応答5:育児休暇中の経験からも, 専業主婦としてやっていくことが自分に合わないのではないだろうかという気がするのですね. 考えや気持ちの堂々巡りをしている状況から早くぬけだしたいのですね.  3, 3
総合評価 3 【コメント】「今の私の気持ちをわかってくれる人がいるんだ」と, とても安堵しました. 安心できるので, もっと話をしたいと思います.
A応答者B
応答1:仕事を辞めるかどうかで悩んでいるんですね.  1, 2
応答2:仕事がつまらなくなってしまったんですね.  2, 2
応答3:またいやになってしまうのではないかと心配しているんですね.  1, 1 【コメント】「いやになってしまう」という言葉が, 単に飽きっぽくて, 考えが幼いために, 「いやになってしまう」というイメージを持ってしまいました.
応答4:続けられなくなった自分を想像すると悲しくなるのですね.  1, 1
応答5:いろいろな選択肢があるけれど, どれも完璧にこなす自信がなく決心がつかないんですね.  2, 1
 【コメント】「いろいろな選択肢があるけれど, 決心がつかない」というのは私の気持ちに合っています. 「どれも完璧にこなす自信がなく」というのが, 核心を突いているけれども, 指摘されるとガクッときました.
総合評価 1 【コメント】たぶん, 隠しておきたい気持ちも見えてしまっているのでしょう. 感情に焦点を当ててもらっているのですが, 言いたくないこと, 指摘されたくないことに触れられてしまったと感じました.
B応答者C
応答1:どうすればいいか, なかなか決めがたいところに立たされているんですね.  2, 2
応答2:このままの状態を続けることが一番の苦痛みたいですね.  2, 1 【コメント】「一番の苦痛みたいですね」という表現が, 応答者の判断のように聞こえました.
応答3:どうも自分に自信がなくて, 方向転換するにも踏ん切れないんですね.  2, 1 【コメント】発言の時には意識しなかったことですが, 別の表現でズバリ言われている感じもします. でも, 自分がダメ人間なのかなぁとシュンとしてしまいました.
応答4:いまのままの自分では, また同じことを繰り返してしまうのではないかという心配があるんですね.  2, 1 【コメント】「また同じことを…心配があるんですね」は, 気持ちに合っているのですが, 「いまのままの自分では」と言われると, そこまで自分のことを全部否定しているわけでもないかな, と思います.
応答5:なにか, 大きな転機を期待しているのですね.  1, 2
総合評価 1 【コメント】私が自分を「こんなんじゃ何をやってもダメだ」と考えているという悩みにすり替わっていくような気がします. そして, 「あなたそんなんじゃダメよ」と言われている気がします.
C応答者D
応答1:今の仕事は辞めたいけど, お子さんが小さいので転職先が見つからないだろうと不安なんですね.  1, 3 【コメント】実は, 生活費の不安の方が比重が大きいのです. このキーワードが入っていなかったので伝わっていないように感じましたが, 別に悪い気はしません.
応答2:システムエンジニアとしての職種自体が自分に向いているのかどうか疑問をお持ちなんですね.  1, 3
応答3:好きな職種なら勉強できそうだけど, それが続けられるか不安なんですね.  2, 3
応答4:新しい分野に挑戦してみたいけど, 現状から逃げてることにならないか, 中途半端に終わってしまわないか心配なんですね.  2, 3 【コメント】繰り返しの応答のようですが, 私の発言より短くうまくまとまっていて, 自分の言ったことがもう一度確認できました. 特に, 「挑戦してみたいけど」「現状から逃げてる」というのは気持ちに合っています.
応答5:今の仕事は辞めたいけど, 専業主婦になるのはためらいがあるのですね.  2, 3
総合評価 3 【コメント】伝わっていないところを補いながら話が続けられそうです.
3)応答の評定結果
 応答者ごとの評点合計を表1に示す.
 今回の実験では, 発言を5つのセクションに分けたため, 最も高い評点は, 一致度合計と好感度合計がともに15, 総合評価は3であり, 最も低い評点は, 前者が5, 後者が1であった.
 4名の応答者のうちではAが全体的に高得点となり, 一致度合計と好感度合計がともに14, 総合評価が3であった. Dは, 一致度合計は8であるが, 好感度合計が満点の15であり, 総合評価は3であった. BとCの一致度合計は, それぞれ7と9であり, Dの8とは1の違いであった. また, 好感度合計はともに7であり, Dの15の約半分であった. BとCの総合評価はともに1であり, Dの3よりも低かった.

表1 応答者ごとの評点合計

考察
 Aにおいて, 一致度合計と好感度合計が高いために総合評価も高得点であったことは, 常識的にも理解可能である. ところが, Dでは, 一致度合計がAの約半分であるにもかかわらず, 総合評価はAと同じ3であった. これは, 「ラポールの維持にとって重要なのは, 聞き手の応答が, 話し手が伝えたいことと合っている(一致度が高い)かどうかではなく, 『確認』という応答行為それ自体である」という〈対話法〉での提言を支持するものと考えられる. また, このことは, 応答者Dの応答1や総合評価のコメントからもわかる. つまり, 言いたいことが伝わっていないことが, 必ずしもラポール維持の障害になるとはかぎらないのである.
 では, 応答さえすればどんな内容でもよいのかというと, けっしてそうではないことが結果からわかる. 応答者Bの応答5と総合評価, 応答者Cの応答2, 3, 4にあるように, 指摘されたくない気持ちが話し手のなかにある場合, 応答者にそこを突かれると拒否反応が生じ, 好感度と総合評価が低くなることがわかる. 今回の実験では, E-メールという対話手段を用い, しかも, まとめて応答をするという手順をとったため, このような結果になったともいえよう. しかし, 現実の対話場面では, 最初の応答が好感をもたれていないとわかれば, つぎの対応を修正するため, 今回のように, 好感度や総合評価が低いまま応答を続けることは少ないであろう.なお, E-メールによる対話であっても, 時間をかけて1セクションごとに発言と応答を繰り返す手順をとれば, 現実にちかい条件での実験が可能であると考える.
 今後の展開として, 被験者数を増やした実験が必要である. また, 今回の被験者は, 〈対話法〉に興味があり, 技法をある程度使える人がほとんどだったため, 比較的高得点が得られたが, 今後は, 〈対話法〉をまったく知らない人たちを被験者とした実験も必要であろう. さらに, 今回の実験では, 一致度よりも好感度の高さの方が総合評価(ラポールの維持)に大きく影響をすることがわかったが, 好感度をよくするための要因として, 〈対話法〉では, 「相手が言いたいことを確認しようとして相手の話をきちんと聞く姿勢」が大切であるとしている. 一方, カウンセリング理論では, ラポールの形成において重要なのは, 「受容的」「共感的」な態度であるとされている. では, それを単純化した〈対話法〉のばあい, 実際どのような行動をとればいいのであろうか. 今後, さらに具体的な仮説をたて, それを検証する実験を試みたい.

参考文献
浅野良雄:ヘルスサイエンス研究, 創刊号, カウンセリングにおける〈対話法〉の適用事例, ぐんまカウンセリング研究会, p. 7-13, 1997
清水敦彦・浅野良雄:足利短期大学研究紀要, 第23巻第1号, 〈対話法〉スキルの到達度を判定するための尺度作成, 足利短期大学, p. 15-19, 2003
浅野良雄・妹尾信孝:輝いて生きる, 文芸社, p. 114, 2000


「ヘルスサイエンス研究」第7巻1号(ISSN 1343-3393)
(2003年10月25日、ぐんまカウンセリング研究会発行)から抜粋