〈対話法〉スキルの到達度を判定するための尺度作成 著者:清水敦彦・浅野良雄 A study to make the standard to judge arrival degree of the "Dialog Method" skill
Atsuhiko Shimizu Yoshio ASANO
Abstract
The "dialog method" took out only active listening technique in counseling and simplified it. A principle of the "dialog method" is a thing to "check the main point of a partner wanting to say by a word to a partner before saying a thought and a feeling of oneself."
The purpose of this study is to make the standard that judges arrival degree of the "dialog method" skill. The writers made the questions in order to measure the "dialog method" skill and carried out investigation. As a result, a meaningful difference was watched between degree of achievement of the "dialog method" and scores, and it became clear that this standard was effective.Key Words : dialog method, active listening, empathy, skill, scale, standard, score
1.はじめに
先に足利短期大学研究紀要第22巻で〈対話法〉については論述したが、〈対話法〉は、1994年に筆者の一人である浅野が考案してから、著書やホームページ、各地での講演や研修会をとおして提唱しているコミュニケーション技法である。それは、カウンセリングの面接技法の中で最も重要な「傾聴技法」を一般向けにアレンジしたものだ。
〈対話法〉の原則は、「自分の考えや気持ちを言う前に、相手が言いたいことの要点を、相手に言葉で確かめる」ことである。
専門的なカウンセラーは、心理学や面接技法について豊富な知識と熟練が必要だが、一般人がカウンセリングマインドを日常で活かすには、そこまでのレベルは必要ない。しかし現在、一般を対象にしたカウンセリング入門講座では、その多くが、本格的なカウンセリング理論や技法がベースになっているため、初心者にとっては難解で、中途半端な理解に終わってしまい、現実であまり役に立たないということもあるようだ。
そこで浅野は、日常の対話場面において、「相手が言いたいことの要点を、相手に言葉で確認する」ということを守るだけで良好な対人関係が保てるという、〈対話法〉の原則と練習方法を提唱している。
ところで、カウンセリングの傾聴技法を習うと、相手が言った言葉をそのまま繰り返して対応し、相手から怪訝そうな目で見られることがある。初心者の場合、とくにそれが顕著だ。その理由として、カウンセリングの研修において「共感」の大切さが強調されすぎることが一因なのではないかとわれわれは考えている。しかし、真の意味での「共感」は初心者には難しいので、形式的な「繰り返し」で代用してしまうという現状があるようだ。
その点〈対話法〉は、「共感」が目的ではなく、「相手が言いたいことを正確に受けとめる」ことに主眼が置かれているので、カウンセリングと比べて習得が容易である。そのかわり、〈対話法〉による対応では、単なる繰り返しでなく、聞き手の想像を交えた応答が要求される。想像であるから、必ずしも相手の言いたいことと合っていなくてもよい。たとえ合っていなくても、想像を交えた積極的な傾聴は、より豊かなコミュニケーションを促進する。
また、現時点では浅野の仮説の範囲を出ないが、〈対話法〉が提唱する積極的な応答技法は、日常でのコミュニケーションだけでなく、カウンセリングの場面においても有効であると思われる。
次に傾聴技法の評価について述べておこう。
傾聴技法を中心とした「受容」や「共感」が心理的にプラスの効果があることは従来から分かっている。それを心理治療に活かしたのがカウンセリングだが、実際の効果を証明するとなると、判定が難しかった。
その理由の第一は、効果に影響する要素があまりにも多いことだろう。とくに、カウンセリング技法に関していえば、「カウンセリングにおける対話の質」と「カウンセリングの心理的効果」を分離しにくいことが主な原因であろうとわれわれは考えている。心理的効果を論ずる場合、時間的な経過や環境の変化が影響してくるため、カウンセリング技法の効果だけを抽出することは難しい。
さらに〈対話法〉の評価についてみるならば、〈対話法〉は、普及活動を始めて以来、それを日常で使う人たちの間から高い評価を得つつある。しかし、その効果についての実証的な研究は、まだされていない。なぜなら、カウンセリングと同様に、〈対話法〉の効果を検証することは難しいとわれわれは考えていたからだ。
しかしその後、〈対話法〉の場合は、複雑な心理的背景や環境要因などを考慮することなく、対話の質だけに焦点を当てた調査・研究ができるのではないかと考えるようになった。今後、さまざまな角度から〈対話法〉の効果の研究を計画している。
そこで、〈対話法〉そのものの効果を検証する前に、個人個人の〈対話法〉のスキルが、われわれが期待しているレベルにどれだけ到達しているかを判定する方法が必要であると考える。なぜなら、カウンセリングの技法と同様、〈対話法〉も、それを知識として知っていることと実際に使えるかどうかは別物だからだ。〈対話法〉の効果を検証するに当たっては、〈対話法〉を実際に使える人がそれを試みた場合、どのような効果が現れるかということを論じなくてはならない。そこで、個人の〈対話法〉スキルの到達度を判定するための尺度の作成が最初の仕事になる。
2.目的
われわれが作成した設問が、個人の〈対話法〉スキルの到達度判定に有効かどうかを判定する。3.方法
1)設問の作成方法
〈対話法〉では、「相手が言いたいことの要点」を、想像を含めて聞き手が認識できるかどうかがポイントである。設問の文章を作成するに当たっては、日常での対話を想定しつつ、下記の3つの難易度レベルを考慮した。また、特別な場合として「沈黙」への対応を入れた。
(1)発言のなかに言いたいことが明確に示されている(繰り返し・言い換えで応答が可能)
(2)言いたいことが行間にかくれている(言い換えや想像が必要)
(3)事実・出来事のみ(想像が必要)
設問の種類は、回答形式の難易度を評価するために、「選択式問題」と「記述式問題」を設けた。2)調査の実施方法
原則として、被験者に質問紙を直接配付してその場で記入してもらい、回収した。ただし、浅野とインターネットのみで繋がっている被験者への質問の送付と回収は、電子メールを使用した。調査期間
2002年10月24日〜11月15日調査の協力依頼対象
(1)〈対話法〉との関りなし群:〈対話法〉の学習に関して浅野との直接の関りがない。
A医院の職員 n=12 A短期大学学生 n=30
(2)〈対話法〉との関りあり群:インターネットを使って浅野が発行する〈対話法〉関連のメールマガジンの購読者と〈対話法〉を練習するためのメーリングリストの参加者、〈対話法〉研修会の参加者 n=193)質問紙の内容
実際に使用した質問紙の内容を掲載する。〈対話法〉に関するアンケート
◎以下の文をよく読み、当てはまる番号をご記入ください。
A 〈対話法〉の原則を知っていますか。( )
(1)知らない (2)知っている (3)知っているだけでなく、意識して使える
B カウンセリングの傾聴技法について知っていますか。( )
(1)知らない (2)知っている (3)知っているだけでなく、意識して使える
C 次に、〈対話法〉を知っている人は〈対話法〉の原則にそって、カウンセリングを知っている人は傾聴技法にそって、まだどちらも知らない人は、普段の自分を想定してお答えください。●相手が次のような発言をしたら、どう応答しますか。2つ以内で選び( )内に数字を記入してください。
その1 算数の点が悪かったときの子どもへの対応
子ども:ああ、嫌になっちゃったな。あんなに勉強したのに算数の点数が悪くて。
もしもあなたが子どもの親であったなら、次のどのような応答をしますか。( )( )
(1)そうか〜、算数の点数悪かったんだ〜。
(2)がんばって勉強したのに、悔しいね。
(3)算数の点が悪いので、嫌になったんだね。
(4)次もがんばろうよ。そうすればきっと算数の点数もあがるよ。
(5)がんばったのに思うような結果が出ないと、がっかりしちゃうよね。
(6)自分ではいっぱい勉強したつもりでも、ほかの子はもっとやっているよ。その2 生徒に対する教師の対応
生徒:社会の勉強ってどうすればいいの。
もしもあなたがその生徒の教師であったなら、次のどのような応答をしますか。( )( )
(1)重要事項をノートにまとめて覚えればいいんだよ。
(2)社会の勉強の仕方が分からないんだね。
(3)いまごろになって、社会の勉強をする気になったのかい。
(4)社会の成績が気になるんだね。
(5)社会の勉強のやり方を教えてもらいたいんだね。
(6)おお、真剣に社会の勉強をしたいようだね。その3 友達に対する自分の対応
友人のSさんがあなたに向かって:そのやり方ではダメだよ。
もしもこう言われたら、あなたなら、次のどのような応答をしますか。( )( )
(1)わたしのやり方が違うのが気になるんですね。
(2)それなら、どうすればいいのですか。
(3)これではダメだと言うのですね。
(4)もっと良いやり方があるのですね。
(5)わたしも一生懸命やっているんですよ。
(6)わたしのやり方が違っているんですね。●相手が次のような発言(沈黙を含む)をしたら、どう応答しますか。それぞれ50字以内で書いてください。
その4 Tさん:うちの子は食が細くて心配なんです。
もしもあなたがTさんの友人だったら、どのように応答しますか。その5 生徒:いま何時。
もしもあなたが教師だったら、どのように応答しますか。その6 Yさん:私は、何をするときも、周りの人に気を遣いすぎて、あとで疲れてしまいます。だから、できるだけ周りを気にしないように心がけることが、自分にとって一番大切なことだと思っています。
もしもあなたがYさんの友人だったら、どのように応答しますか。その7 子ども:沈黙が続いている。(場面は自由に想定してください)
もしもあなたが子どもの親だったら、どのように応答しますか。◎設問は以上で終わりですが、回答を終えてみて、何か感想・質問等がありましたら、どんなことでもよいですから、お書きください。
4)回答の処理方法
記述式の問題は下記の基準で浅野が採点する。
選択式の問題は、それぞれの選択肢に対して浅野が決めた配点にしたがって採点する。選択式の配点基準は記述式に準ずるものとする。採点基準
(1)相手が言いたいこと(想像を含む)の確認のみ(繰り返しがあっても良い) 2点
(2)相手が言ったことの繰り返し(単なる言い換えを含む)のみ 1点
(3)それ以外(質問や自分が言いたいことなど)がある場合 0点
(4)無記入(自分の言いたいことと無回答は同じとする) 0点
得点は、個人につき、「選択式小計」「記述式小計」「合計」にわけて統計処理した。得点の可能性
合計点は、0点〜20点の間になる。
合計点は以下のような場合が想定される。
(1)「意見、評価、質問など、自分が言いたいこと」(無回答を含む)のみで応答すると。 0点
(2)繰り返し(単なる言い換えを含む)のみで応答すると。 10点
(3)聞き手の想像を交えて応答すると。 10点以上4.結果と考察
採点基準に従って得点を計算し、統計処理を行なった。得点が高いほど、〈対話法〉スキルの到達度が高いものと判定する。基本解析ソフトとしてExcel、アドインソフトにはStatcelを使用した。
質問紙にはカウンセリングについての知識の有無を問う項目があるが、これはわれわれの参考のためであり、統計処理は行なわなかった。1)〈対話法〉への関りの有無と得点の関係:
スチューデントのt検定により、〈対話法〉に関りがない群と関りがある群における得点の平均値を比較した。(表1)(図1)表1)〈対話法〉への関りの有無と得点の関係 n=61
*p<0.05 **p<0.01 ***p<0.001
関りなし群(n=42)の合計得点は6.76、関りあり群(n=19)は10.53であり、有意差が確認できた(p<0.001)。これは、図1のグラフからも明らかである。このことは、〈対話法〉への関心が高く、関りが深いほど得点が高いことを示している。
関りなし群では、選択式、記述式ともに得点が正規分布していなかったので、関りあり群との間の平均値の差の検定は行なわなかった。これは、〈対話法〉に関りがない群(n=42)の中には、〈対話法〉を知らない人が37人おり、〈対話法〉に則した応答の基準をもたないため、個人のバラツキが現れたものと考えられる。また、直接〈対話法〉との関りがなくても、〈対話法〉やカウンセリングを知っている人がおり、高い得点を得ているため、得点の二極化があった。
記述式問題では、関りなし群の平均得点が0.60、関りあり群の平均得点が3.16となり、検定は行なわないものの、大きな差があることがわかる。この違いが現れるのは、選択式の場合、〈対話法〉を知らなくても、直感的に回答することが可能だが、記述式の場合は、〈対話法〉の原則を知らないと適切な回答ができないからであろう。2)〈対話法〉の習熟度と得点の関係:
Scheffe's F法による多重比較検定により、〈対話法〉を知らない群、知っている群、意識して使える群の得点の平均値を比較した。(表2)(図2)表2)〈対話法〉の習熟度と得点の関係
*p<0.05 **p<0.01 ***p<0.001
選択式問題では、〈対話法〉を知らない群と使える群の間で得点の平均値に有意差が認められた(p<0.05)。
記述式問題では、知らない群と知っている群、知らない群と使える群の間に有意差が認められた(p<0.001)。
合計では、知らない群と知っている群(p<0.05)、知らない群と使える群(p<0.001)の間で有意差が認められた。
これらの結果から、〈対話法〉の習熟度が高いほど得点が高くなることがわかった。また、選択式問題より記述式問題の方が差が顕著であり、到達度の判定に適していることがわかった。3)回答者から寄せられたメッセージ
アンケートに記載された主な感想と意見を、主旨を変えずに読みやすく直して掲載する。
○相手の表情、周りの情況、立場などが明確でないため、対応の仕方に戸惑った。
○会話をあらためて字にしてみることで、普段の自分の受け答えが相手をどのような気持ちにさせるか考え直すべきところがあると思った。
○いろいろ考えすぎて、応答が難しかった。
○人の気持ちを考えながら言葉を言うのは大変だと思ったが、話し方など、知ってみたいと思った。
○人によっては傷ついてしまう言葉掛けもあるので難しいと思った。
○普段はいろいろな話し方をしているので、字数が決められてしまうと大変だ。
○会話一つで、人の心は癒されたり落ち込んだりするものだ。人にプラスになる会話をしてあげられたら良いのにと思った。
○実際に出る言葉は、ここに書いたものと違うような気がする。
○情況などの情報が足りず、設問の意味がわからないところが数ヵ所あった。なぜこのようなプリントを行なったのか知りたい。
○少し考えれば選んだり書いたりは出来るが、咄嗟の会話の中でできるかどうか自信はない。
○こういうかたちで、普段の自分の発言などを振り返ってみると、随分考えなければいけない事があるなと考え込んでしまった。
○問題のブロックのそれまでの流れがないので、難しいのもあった。「確認」と「傾聴」がゴチャゴチャになった。5.結論
選択式問題では到達度の明確な判定が難しいことがわかり、いくつかの課題は残るものの、今回の調査により、われわれが作成した設問を使って〈対話法〉スキルの到達度を判定できることがわかった。6.おわりに
今後は、〈対話法〉の到達度に関して、より正確な判定ができるように質問項目の改良を行ないながら、〈対話法〉そのものの効果を検証する研究を進める予定である。今回の調査は、簡便な方法によって〈対話法〉スキルの到達度が判定できるので、今後の研究の道が開かれたものと考える。
アンケートに快く協力してくださった学生のみなさんと〈対話法〉研究への協力者のみなさんに感謝する。■参考文献
浅野良雄:ヘルスサイエンス研究、創刊号、カウンセリングにおける〈対話法〉の適用事例、pp7-13、ぐんまカウンセリング研究会、1997
清水敦彦・浅野良雄:足利短期大学研究紀要、第22巻第1号、高齢者介護施設職員への〈対話法〉の試み、pp1-7、足利短期大学、2002
浅野良雄・妹尾信孝:輝いて生きる、文芸社、2000
足利短期大学・研究紀要/第23巻(ISSN 0389-3278)
(2003年3月1日発行)から抜粋