カウンセリングにおける〈対話法〉の適用事例

著者:浅野良雄

要約:

 カウンセリングにおいて使われる最も基本的な技法の一つである「繰り返し」や「感情の明確化」といった「傾聴技法」のみに重点をおいた技法を考え、筆者は独自にそれを〈対話法〉と名付けた。
 日常生活で、必要に応じて「自分の考えや気持ちを言う前に、相手が言いたいことを確認する」というのが、〈対話法〉の原則である。実際の「確認」は、言葉による応答という形で行う。互いに「確認」し合うことにより、誤解の少ない意思の疎通が行え、それにつれて互いの信頼感が深まる。
 筆者が求めている〈対話法〉の本来の目的は、日常生活でのより良い人間関係の構築であるが、〈対話法〉をクライエントに指導することによって、対人関係能力の向上や個人カウンセリング終了後のアフターケアにも大いに役立つことが分かった。その指導は1対1の面接場面だけでなく、〈対話法〉の練習を目的とした「対話の会」と称するグループ学習活動を通しても行われる。
 心理的に安全な場を提供する「対話の会」は、日常生活でのストレス解消や心理的な悩みの予防効果もある。

キーワード:対話法、対話、人間関係、傾聴、カウンセリング


1.はじめに

 新しくてより効果的なカウンセリングの技法が次々と生まれ、成果が得られているが、技法がだんだんと複雑化する傾向もあるようだ。そこで筆者は、1994年に、技法を極限まで単純化したものを独自に開発し、それを〈対話法〉という造語で呼ぶことにした。
 その後の実践から分かったのは、クライエントの症状や心理的状態を考慮しながら〈対話法〉を適切に指導することにより、カウンセリングの期間が短縮されること。また、広く一般の人たちに指導することにより、快適な人間関係の構築に役立つということである。
 この小論では、〈対話法〉の概要を紹介すると共に、実際の事例への適用結果と合わせて、〈対話法〉をグループで学習するために創られた「対話の会」の活動について報告する。

2.〈対話法〉が生まれた経緯

 対人関係の悩みを主訴とするケースにおいて、継続的なカウンセリングの結果、一旦は症状の軽減や精神的な安定が得られたとしても、クライエント自身の、日常生活における人とのコミュニケーション能力の向上がない場合、もとの症状が再発したり、気分が不安定になったりして、再びカウンセラーを訪れることが少なくない。しかしながら、対人関係の訓練という点では、個人面接で出来ることは限られている。そんな場合、グループ・カウンセリングの機会でもあれば、少しずつ適応の範囲を広げてゆけるのであるが、そういう機会に恵まれる人は少ない。
 そのような状況から、一部の人たちは、一般を対象にしたカウンセリング講座などに参加して、そこに精神的なやすらぎと対人関係能力の向上を期待する。確かに、そこには温かい雰囲気があって、多くの場合、心の安定が得られ、かつ傾聴技法を学習することによって対人関係に少しずつ自信がついてくる。しかし必ずしも絶対安全な場所というわけではなく、時には、他のメンバーの発言によって心を傷つけられたりすることがある。そこではお互いに本音で話すことが奨励されているので、メンバー間に、ときどき感情の衝突が起こる。しかし、それを解決できる簡単なルールがないことが、これらのトラブルの主な原因なのではないかと筆者は考えていた。強靭な精神の持ち主なら、その対立を糧として成長するが、いわばカウンセリングのアフターケアとして講座に参加している人には、いささか厳しい場である。参加したことによって、かえって症状が再発または悪化してしまうことさえある。
 そこで、お互いに本音を出しながらも、不必要なショックを受けないで、少しずつ適切な対人関係を学べるような最低限のルールと訓練技法はないものだろうかというのが筆者の課題であった。
 一方、その一般向けのカウンセリング講座の内容であるが、目的は何であれ、そこでは、実技訓練として、主に「繰り返し」や「感情の明確化」などの傾聴技法が指導されている。そのため、特に初心者の場合、カウンセリングと傾聴技法はイコールであるとの短絡的な認識をしてしまう人がいる。その一方で、カウンセリングにとって最も大切な傾聴技法さえも十分に身につけていない人が、実際に心理的な相談に当たっていたりする現状も耳にする。
 どちらも、看過できない大きな問題であるが、その原因として考えられるのは、カウンセリングにおいて、傾聴技法があまりにも効果を発揮するため、それだけが強調され過ぎること。またそれと逆に、傾聴技法が一見なんの変哲もないありきたりの応答のしかた(実際に熟練するのは至難のわざなのだが)であるために、安易に受け止められているからではないだろうか。そこで、筆者は、傾聴技法を、カウンセリングとは分けて考え、その分、むしろカウンセリングの前提となる必須技法としてもっと強調してとらえ直した方が適切なのではないかと考えた。
 ところで、カウンセリングにおける傾聴技法が、面接室での治療場面だけでなく、私たちの日常生活での対人関係にも生かせることは従来から知られていた。例えば、それは、カウンセリングとの関連で言えば、イジメに合っている子どもや不登校の子どもに対する親や教師の対応のしかたのヒントになったりするが、そういう特別な状況でなくても、一般に教師や医療・福祉関係者など、いわゆる職業上、対人関係が重要な人たちに役立つ技法である。また、さらに、ごく一般の人たちが、より快適な人間関係を営む上でも役に立つ。これらの場合、専門的なカウンセリングに使うのではないから、技法としてはなるべく単純明解な方が良い。
 筆者は、1994年に、これまで述べたすべての条件を考慮しながら技法を考案したが、その呼称を考えるに当たり、いっそのこと「傾聴」という一方向的なニュアンスのものでなく、実際の状況に近い双方向の「対話」としてとらえ直した方が良いだろうと考えた。その方が、一般の人たちに馴染みやすく、かつ適用範囲が広がると思ったからである。そして、技法の原則と練習方法を総称したものに〈対話法〉という名称をつけて、指導と普及活動を始めた。〈対話法〉の指導は、個人面接の際にアドバイスとして行うこともあるが、主として、公民館などを会場にした「対話の会」というグループ活動を通して、指導を行っている。

3.〈対話法〉の実際

 次に、実際の「対話の会」で参加者に渡しているプリントの全文を掲載する。

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      こころの通う〈対話法〉 Ver.4.0

          はじめに

 〈対話法〉は浅野の造語です。また「対話法の原則」と「練習方法」は、従来から心理カウンセリングなどにおける基本的技法の一つとして使われていたものに、日常生活で役立つよう浅野がくふうを加えたものです。

       〈対話法〉について

対話法の原則:

 自分の考えや気持ちを言う前に、相手が言いたいことを確認する。(日常の対話では、この「確認」が習慣的に省略されている)

1.なぜ〈対話法〉が必要なのか:

 人間は、自分の考えや気持ちをできるだけ正確に伝えたい欲求を持っています。そして、自分に自己主張をする権利があるのと同様、相手にも自己主張をする権利があります。実際の人間関係では、これらを互いに認め合うことがたいせつです。それが実現すればするほど、人間関係、特に信頼関係が深まります。そこで役立つのが〈対話法〉です。

2.どんな時に使うのか:

心のより深いところで話し合いをしたい場合、また逆に、誤解が生じたり、意見や感情の対立が起こりそうになった場合は、できるだけ早目に「対話法の原則」(相手が言いたいことの確認)を用いることがたいせつです。

          練習方法

1.練習の必要性:

 〈対話法〉を身につけるには練習が必要です。また、日常での「確認」は適宜行ないますが、慣れないうちは「発言」と「確認」の気持ちの切り換えが難しいので、練習では時間によって立場を明確に区別します。それによって、〈対話法〉の原則を早く習得できます。さらに、〈対話法〉を知っている人同士なら、必要に応じて、この「練習方法」をそのまま日常の対話に使うことができます。

2.準備:

 3人が1組になり、2人が「発言者」と「確認者」、1人が「観察者」になります。(ここで、「話し手」と「聞き手」という一般的な名称で呼ばないのは、「確認者」も話すからです)

3.進め方:

(1)「発言者」が自分の言いたいことを話します。

(2)「確認者」は「発言者」が言いたいことの「要点」を言い返して「確認」します。

(3)「発言者」は、「確認の内容」が自分の言いたいことと合っていれば話を進め、違っていれば補足、訂正をします。そして(2)にもどります。

○このように、発言と確認を繰り返し、時間になったら「発言者」と「確認者」だけが立場を交替します。「観察者」は同じ人が続けます。

○交替の際に、話題を替えても替えなくても各自の自由です。

○交替の時間は3〜5分ごと、回数は2〜5回で、世話人(講師)が決めて指示します。

○時計係は世話人か観察者が行ないます。30秒くらい前後しても問題ありません。

つまり、

1回の表:Aさん(発言者)Bさん(確認者)

(3〜5分)

   裏:Bさん(発言者)Aさん(確認者)

(3〜5分)

2回の表:Aさん(発言者)Bさん(確認者)

(3〜5分)

   裏:Bさん(発言者)Aさん(確認者)

(3〜5分)

        練習の時に心がけること

1.確認者:

(1)だまって聞いているだけでなく、必ず「確認」をしてください。それが練習です。

(2)「確認者」の立場にいる間は、「同意」「批判」「評価」「意見」「なぜ?という質問」など、つまり、自分が言いたいことは言わないように努めてください。

(3)出来事や事実だけでなく、「発言者」の気持ちや感情にも焦点を当ててください。

(4)「発言者」の過去の気持ちだけでなく、今、その場で感じたり思っていることに焦点を当てた「確認」を心がけてください。

2.発言者:

(1)手ぎわ良く話そうとしたり、うまく話そうと意識する必要はありません。

(2)「確認者」が「確認」をしやすいように、適当な間をあけて話してください。

(3)一度にいくつもの事柄を話さないようにしてください。

(4)出来事だけでなく、それにまつわる自分の気持ちや考えを言うことがたいせつです。

(5)話しているうちに気持ちが変わった時は、遠慮なくそれを相手に伝えてください。

(6)相手の「確認」が自分の言いたいことと同じかどうか、自分の心に尋ねてください。違っていたら、遠慮なく補足や訂正をしてください。

(7)自分の心の内面や気持ちにじっくり向き合いながら話すことがたいせつです。沈黙でさえ大きな意味があります。

(8)なるべく、今、その場で感じたり思っている気持ちを探しながら話してください。

3.観察者:

(1)技法が守られているかどうかを観察し、違っていたら手短に指摘してください。

(2)自分だったらどう「確認」するかを考えながら聞いてください。

 感想を話し合う時に心がけること

(1)日常の対話の練習のつもりで、大事なところは〈対話法〉を使いながら話してください。

(2)質問や要望がある時は、遠慮なく世話人(講師)に声を掛けてください。

(3)感想の内容は、「発言者」や「確認者」の欠点の指摘だけに集中しないで、良かったところも必ず言ってください。

4.〈対話法〉の特徴

(1)名称の由来

 カウンセリングや傾聴という言葉を使わずに、あえて〈対話法〉という名称にしたのは、先にも述べたように、専門的なカウンセリングと区別する必要性と、日常生活でも使えることを強調したかったからである。実際、日常生活では、初めから終わりまでどちらか一方が聞き役に徹することはまずない。しかし、専門的なカウンセリング場面では、ほとんどの時間、カウンセラーが聞き役になる。したがって、〈対話法〉の見地からは、「カウンセラーの応答の仕方は、対話の特殊な形である」という捉え方をする。

(2)〈対話法〉の原則

 「自分の考えや気持ちを言う前に、相手が言いたいことを確認する」を〈対話法〉の原則とした。カウンセリングにおける傾聴では、この場合の自分、つまりカウンセラーの考えや気持ちを言うことは、とりあえず脇に置かれている。しかし〈対話法〉はカウンセリングでないので、あくまでも相互交流を考慮した。
 また、「相手が言いたいことを確認する」のところは、カウンセリングでは「繰り返し」や「感情の明確化」などと細分化して説明し、また指導されるが、〈対話法〉は専門家教育が目的ではないので、その点はおおざっぱに捉えた。なぜなら、技法としての要求項目が少ない方が、気軽に練習し、また実践できると考えたからである。しかし、傾聴の本質は外していないと思う。
 さらに、確認することは特別なことではなく、本来の対話には確認が必要なのに、日常の対話では、この確認が「習慣的」に省略されている、という捉え方をした。この考え方には筆者の独断が入っているが、これは、何よりも確認の重要性を強調したいためである。
 〈対話法〉における、この唯一の技法を「確認技法」と呼ぶ。

(3)交替の意義

 練習方法も〈対話法〉独自のものを考案した。カウンセリングの実技訓練では、これは通常「ロール・プレイング」と称されるものである。ロール・プレイングでは、カウンセラーとしての訓練が目的であるため、クライエント役とカウンセラー役を固定したままで15分から20分くらい行うのが通例である。後で役割を交替するが、それは交替それ自体が目的ではなく、単に練習の機会が片寄らないためである。
 しかし、〈対話法〉では、立場の交替そのものに意味付けをした。それは、対話というものは、そもそも交互に行われるものだからである。また、〈対話法〉と言うからには、聞くだけでなく発言の練習もしたいからだ。短時間で交替することにしたのは、実際の対話の条件に近づけるためと、学習の効率化、また、お互いの心の深層に深入りし過ぎないようにとの配慮からである。さらに交替にはこういう意味もある。それは、特に初心者がロール・プレイングをする時の問題点の一つに、カウンセラー役(聞き役)だけで数十分もいると、だんだんと言いたいことがたまってきて、かえって相手の話を良く聞き取れなくなってしまうという実状がある。専門家の養成を目的とする場合は、その体験と克服がきわめて重要であるが、そうでない場合は、あまり意味のないことだと思う。そこで、言いたいことがたまり過ぎないうちに発言の機会が訪れるというのは意味のあることである。また、専門家の養成であっても、入門の段階で〈対話法〉の練習による相互交流を体験しておくことは、日常の人間関係と、カウンセリングという特殊な関係との違いを認識するという意味において意義があると思われる。さらに、「発言者」と「確認者」という正反対の立場を短時間に体験することによって、クライエントとカウンセラーの立場の違いを鮮明に実感できることの価値は大きい。

(4)練習における役割の呼称

 練習における役割の呼び名には苦労した。カウンセリングで言われるカウンセラーとクライエントという呼び名にしないことははっきりしていたが、一般的な「話し手」「聞き手」という関係では、一方向のニュアンスが残ってしまって〈対話法〉の本質を伝えられない。そこで、「発言者」と「確認者」という、少々硬い呼び名にせざるを得なかった。

(5)進め方

 練習の進め方は、短時間に交替すること以外はロール・プレイングとほとんど同じだ。始める際に、必要に応じて、世話人が〈対話法〉について概略の説明をした後、3人ずつのグループに分かれてもらい、役割を決めてから練習に入ってもらう。練習中、世話人はなるべく口を挟まないで、そっと様子だけを見て回る。
 確認する内容は、常識的に「要点」と思われるものなら良しとする。「確認する意志と行為」自体に最も大きな価値があるので、確認の内容が合っているか違っているかはあまり重視する必要はない。
 原則的には3〜5分ごとに交替としているが、時間はそれほど厳密にする必要はない。要は、お互いに平等だと感じられることと、数分後には言いたいことが言えるという安心感が大事なのである。練習を体験しないうちは、3分は短すぎて何も話せないように思うが、実際やっているうちに、だんだんと短時間のうちに自己の内面に集中できるようになる。また、時間の短さが適度な緊張感を与えて練習が引き締まる。
 世話人は、練習の開始時に、「相手が言いたいことを確認する」という原則を指示しておくだけで、後はメンバーに任せておいても、ほとんどの場合、なごやかな雰囲気の中でスムーズに進行する。相手の話を真剣に聞き合おうという共通の姿勢がその場に満ちているだけで、人間関係が快適なものになる。むしろややこしい注意や指示はしない方が良い。

(6)練習のレベルアップ

 そして、メンバーがだんだんと〈対話法〉に習熟してくるにつれて、世話人は「練習の時に心がけること」を説明して、心理的に、より深い対話ができるように導く。この「心がけること」が実現すればするほど、カウンセリングの技法に近くなる。もちろん、世話人が、メンバーに対してどのレベルまで要求するかは、メンバー1人1人の参加目的や、会全体の目的によって違ってくる。単純に、レベルが高ければ良いということではない。
 〈対話法〉の練習方法は、そのまま、カウンセラー養成訓練の初期の段階でも使える。その際、時間配分を工夫すれば、ロール・プレイングに近い形になる。

(7)感想の話し会い

 練習が終わって感想を話し合う時間も有意義である。この時も「確認技法」を使うことが大切である。感想は、立場を決めて交替で言うわけではないので、それこそ、〈対話法〉の実践の機会である。そこでは、ともするとメンバー同士の意見がぶつかりあうこともある。そんな時こそ、世話人は「確認技法」を適切に用いて調整をはかりながら、同時に「確認」の見本を示す必要がある。感想を話し合う時が、世話人の最も活躍する場面である。

5.カウンセリングへの適用事例

(1)対人関係に悩むクライエント

事例1

 日常の対人関係が原因で軽度の神経症に悩むという事例は多い。筆者が出会った事例の一つに、深刻な対人恐怖と言うほどではないが、乳幼児期の体験を主な原因とする自己否定感によって、自分の言動に自信が持てず、人と会って話をする時に息苦しくなるというクライエントがいた。他の症状や治療経過の詳しい説明はここでは省略するが、この事例では、医師との連携を図りながら、1年あまりに渡るカウンセリングを行なった。特に、イメージ技法を使った脱感作によって、身体症状はほぼ全快した。しかし、数十年に渡る自己否定感を個人カウンセリングだけで完全に解消するのは時間がかかり過ぎる。そのクライエントは、日常生活が困難なほど重症ではなかったので、本人とも合意の上、「対話の会」への参加によって、実際の対人関係を通してさらなる行動変容を試みることにした。
 そもそも、「対話の会」に参加するメンバーは、人と心を通わせたいというモチベーションが高いので、自分の話を聞いて欲しいという欲求だけでなく、お互いの存在を認め合うことの大切さを理解している。その上さらに「確認技法」がルールとして加わるので、「対話の会」の集まりは、心理的にきわめて安全な場所になる。
 そんな環境の中で、先のクライエントは、練習の際に「発言者」として自分の気持ちを表現する体験を重ねることで、だんだんと複数の人に対して心がオープンになってきた。また、「確認」の練習によって、相手の話の受け答えにもだんだんと自信がつき、人に対して安心して向き合えるようになってきた。また、もともと聞き役に回るタイプではあったが、日常生活で〈対話法〉を生かすことによって、さらに「話をよく聞いてくれる人」と評価されるようになり、親しい友人も増え、自信につながっていった。
 そのうち、それまでカウンセラーに対してだけ打ち明けていた個人的な苦悩を、会のメンバーの前でも公表できるようになり、それが複数の人たちから共感を得られ、確固とした自己受容につながっていった。
 「対話の会」では、みんなで感想を話し合う時に、もし、相手の発言に対して否定的な意見を言いたい人がいた場合、それも許される。しかし、「自分の考えや気持ちを言う前に、相手が言いたいことを確認する」という安全装置が働いているので、それさえ守っていれば、反論も批判も攻撃的な口調にはなりにくい。だからこそ、カウンセリングのアフターケアとして役立つのだ。

事例2

 もう一つ別の事例を紹介する。
 「これまでの自分は、ほとんど家族の中だけでの会話に限られていて、いろいろな人と話をする機会があまりなかった。そのために、特に初対面の人や、久しぶりに合った人と話す時に、沈黙が不安で、緊張したり興奮したりして、ついつい多弁になって余計なことを喋ってしまう。頭を通過しないで口だけで話してしまうことが多い。後になって後悔する」と訴えるクライエントがいた。面接中も多弁で、カウンセラーが口を挟む間がないほど立て続けに話した。
 このクライエントには、ある程度カタルシスが行われた段階で〈対話法〉を説明した。特に、「発言者が心がけること」の中の以下の二つを強調した。面接中もこれらに注意しながら話して欲しいと指示した。

〇自分の心の内面や気持ちにじっくり向き合いながら 話すことがたいせつです。沈黙でさえ大きな意味が あります。

〇なるべく、今、その場で感じたり思っている気持ち を探しながら話してください。

 その結果、だんだんと自分の内面に意識が向くようになり、落ちついて話せるようになってきた。
 数回のカウンセリングを通して、カウンセラーとの間で「確認技法」を練習した結果、「人から悩みを打ち明けられても、ことさら自分の意見を言わないようになった。言わなくてもいられるようになってきた。友人関係でも、適当な距離が保てるようになってきた」と語るまでに変化した。

(2)不登校の子どもへの接し方

 不登校の子どもを持つある母親とのカウンセリングの中で、「子どもの気持ちを知りたいが、なかなか話してくれない」「私自身も自己主張をすることが苦手で、人の後ばかり付いて行く自分に気付いている。なんとかしたいと思っている。実母にだけは感情をぶつけてしまう」という訴えがあった。初回から数回目までの間は、もっぱら傾聴によるカタルシス効果と事実関係の把握に努めたが、ある程度クライエントの気持ちが整理され落ちついてくると、カウンセラーに話を聞いてもらうだけでは満足できないようで、これからどう考えて行動に移したら良いかというアドバイスを求められた。筆者の場合、そのような時は、クライエントの心理状態を解釈したり、これからの実際の行動について提案することよりも、〈対話法〉の紹介と指導を優先している。そこで、子どもへの対応に〈対話法〉が有効であることを話し、概略を説明した。
 次回の面接の時、「さっそく子どもとの間で〈対話法〉を使い始めた。その結果、学校でイジメられているとか、先生に迎えにきて欲しくないなどと子どもから言われ、辛い気持ちの2週間だった」と語った。カウンセラーとしては、母親の辛さに共感しながらも、子どもが、今まで母にも言えなかった本音を言い始めたことは一つの前進であると思い、それを母親に伝えた。
 相手が話してくれることは、相手の気持ちが分かるので安心できる反面、話された内容によっては、かえって新たな心配や不安が生じることがある。しかし、カウンセラーが、その新たな心配や不安に共感しながら、クライエントが一歩一歩、自分の足で解決の方向に歩き続ける過程を支えるのがカウンセリングであることは言うまでもない。
 後日の面接の時、「担任の先生が迎えにくると嬉しそうに学校に行くが、どうも本意ではないようだ。その点で、先生の来宅をそのまま受け入れて良いかどうか迷っている。ある相談機関でも、『先生が親切過ぎるのにも問題がある』と言われ、信頼している先生にそのことをどう伝えたら良いか悩んでいる。先生にうまく伝えられる自信がない」と訴えていた。筆者は、「どういう言葉で伝えるかということよりも、〈対話法〉によって、担任の先生の気持ちをくんだ対応を心がければ、あとはどの様に言っても、先生も母親の気持ちを分かってくれるのではないか」と助言した。次の週の面接で、「さっそく学校に行ってお願いした。先生の方もちょうど同じようなことを思っていたと、快く承知してくれた。〈対話法〉が役立ったように思う」と報告してくれた。
 そのうちに、子どもが学校に行ける日の方が少しずつ多くなっていった。しかし、毎日疲れて帰ってきた。そこで、筆者は、子どもの頑張りを支えて欲しい、帰ってきた時の優しい声掛けが大事だとアドバイスした。その後しばらく様子を見ることにして、一旦カウンセリングを中断した。母親は「この後また逆戻りしても、なんとか自分でやってゆける自信がある。この体験を他の人にも役立てたい」と言っていた。
 後日、母親が「対話の会」に入り、子どもの話を聞くだけでなく、自分自身の「自己主張」についてもだんだんと自信をつけていった。

(3)心の交流の場としての活用

 「対話の会」には、必ずしもクライエントという立場ではなく、〈対話法〉が生活に役立つという理由で参加する人がいる。実際は、むしろ後者の方が多い。
 筆者としても、心の内面をまじめにじっくり語り合う機会を欲している方や、職業上、カウンセリングの技法を身につけたいが、近くに学習の場所がないという方に勧めている。カウンセリングの専門家になるわけでなければ〈対話法〉で十分だとも考えている。
 「対話の会」に参加して、生まれて初めて会話らしい会話をしたと感激する方や、自分の話をさえぎるような質問や批判が全くないことによる安心感を体験して、自分も早くそうできるようになりたいと願う初参加の方もたくさんいる。
 一方で、カウンセリングの勉強を長く続けているが、いま一つ傾聴のポイントが掴めなかった。どうしても聞きっぱなしか、単なるオウム返しになってしまうが、「対話の会」に参加して、「立場をこまめに交替しながら」「話の要点を確認する」ことを強調した練習によって、傾聴の本質を実感することができたと言ってくれた方も大勢いる。
 さらに、練習を通しての自己開示や自己主張は、日常生活におけるストレス解消にも役立つし、神経症などの予防効果もあることは言うまでもない。

6.まとめ

 この小論では、筆者が開発した〈対話法〉と応用事例を紹介した。ただし、開発とは言っても、すでに行われていたことの改良である。しかし、再度強調したいのは、同じ技法を、カウンセリングや傾聴でなく「対話」という観点から捉え直したことである。これによって、技法の適用範囲が広がり、関心を持つ人も増え、実績が上がっている。今後、〈対話法〉がいたるところで多くの人に使われるようになることを願っている。


「ヘルスサイエンス研究」創刊号(ISSN 1343-3393)
(1997年11月3日、ぐんまカウンセリング研究会発行)から抜粋

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