ある中学校での「総合的な学習の時間」における
〈対話法〉の実践レポート

対話法研究所 浅野良雄


(以下の文章は、ある学校教育関係のメーリングリストで発言した内容に加筆したものです)

 数年前のことですが、わたしが市内の中学校で「心の教室相談員」をしていたとき、1年生の「総合的な学習の時間」で、コミュニケーションについて講話と実習をする機会がありました。

 授業では、わたしが〈対話法〉の研修会や練習会で常々行なっているのと同じような「質問」を生徒にするところから始めました。

 日頃の授業における先生からの「質問」とは趣の異なるもので、きっと珍しかったのでしょう、生徒達は、みんな活発に応えてくれました。

 その質問というのは、たとえば……

 君の友達のK君が、

●きょう、山田君が遊んでくれなかったんだ。

と君に言ったとしたら、君なら、どう応える?

というものです。

 そして、わたしは、いくつかヒントを出しながら、生徒の応えを待ちます。

 ヒントというのは、たとえば……

●K君は、どんな気持ちなんだろう。
●K君はなにを言いたかったのだろう。

などです。

 すると、生徒からいろいろな応えが出てきます。

●山田君となにかあったの?
●つまらなかったよね。
●それでどうしたの?

などです。

 生徒たちがお互いに応えを聞き合うことによって、「いろいろな考え方、応じかたがあるんだ」ということを知ってもらうだけでも意味があると思いますが、実際の授業では、もう少し進んで、一つ一つの応答について、その良いところや注意点を生徒と一緒に考えてみました。

 たとえば、このようにしてです。

●「山田君となにかあったの?」って言われたら、こんどは君がK君の立場だとしたらどう思う?

と聞きます。

 すると、またまたいろいろな反応が返ってきます。

たとえば、

●僕がK君だったら、いろいろとわけを話して聞いてもらう。
●わたしだったら、なにか探られているようで、それ以上言いたくなくなってしまう。

などです。

 こうして、自分がどう応答すると、相手はどのように感じる可能性があるのかということを、先生が知識として教えるのではなく、生徒が自分自身の感性で気付く機会になります。
 また、大事なことは、初めの「質問(課題)」をきっかけにして、生徒と先生との間で「『対話の方法』についての対話」が行なわれることです。

 これは大切なことです。なぜなら、「対話の方法」というのは、対話についての理論や心構えをおぼえるだけでは不十分で、実際の対話を通して体験学習することが大切だからです。

 はじめの質問(?)自体は、ごくありきたりなものですが、このように視点を絞ることによって、かなり深い学習ができます。

 生徒たちにとっては、このようなことを改めてきちんと考えた体験は、あまりなかったのでしょう。そういう意味で、興味深かったようです。

 このような練習を通して、「こころ」の動きとはどういうものか、またそれに具体的に向き合うにはどうすればいいか、ということを生徒に伝えていくことができます。

 このような学習は、きっと、昔から国語教育の一部として行なわれてきたことでしょう。しかし、時には「こころ」というところだけに焦点を当ててみると、このような単純な質問からも、生徒たちからさまざまな反応が出てきて、コミュニケーションの複雑さと面白さ、それに対する対応のしかたを、みんなで楽しみながら学べます。また、その質疑応答自体が「対話の練習」になります。

 指導上のただ一つの注意点は、「どんな応えが出ても、決して非難や否定をしないこと」これだけです。

 1時間の授業では、この程度までが限界ですが、それでも子どもたちにはインパクトが強かったようです。もし、数回の授業ができるなら、もっともっと伝えたいことや体験してもらいたいことがあるのですが……。

 また、この練習方法は、子どもたちだけでなく大人にも役に立つので、〈対話法〉ではそれをお薦めしています。

 すでにこのような授業を実践しているかたがいらっしゃったら、その体験をお知らせいただけると嬉しいです。一緒に研究していきたいと思っています。

(2002.5.26)

その後、〈対話法〉が全国に広がっていき、ある新潟県内の小学校の先生から、「道徳の授業の一環として、『気持ちを分かち合おう』というテーマで、〈対話法〉を楽しく実践しています」との報告が入りました。

他にも、このように役立っています(体験談) こちら


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